原理
NMRは、原子核を磁場の中に入れたときに放射される電磁波のエネルギーが分裂する(=周波数が変化する)現象【ゼーマン効果】を利用して、原子核の持つ磁気振動(核スピン)の周波数を検出する手法です。核スピンの周波数や分裂は、原子核の周囲の環境(電子状態、化学結合、回転運動など)によってわずかに影響を受けることが知られており、得られたスペクトルの違いから、様々な解析をすることができます。核スピンは微弱ですが、電磁波パルスを使った磁気共鳴の原理によって、信号を取り出すことができます。分析機器としてはNMRの感度は高くありませんが、試料の前処理がほとんど要らず、非破壊分析である特長があります。
溶液中では、分子がブラウン運動により自由にふるまえるため、基本的に分子の情報だけが残りやすい状態になっています。したがって、溶液NMRでは、核を取り巻く周囲の環境や隣合う原子核について知ることができ、分子構造の情報が得られます。NMRスペクトルは解析が難しいですが、大きな分子に対しては、二次元や多次元NMRを用いて視覚的に解析することもできます。
一方、固体では分子運動が束縛されるので、溶液に比べてとても小さい横緩和時間となって線幅が広がります。また、溶液のような分子の回転運動による平均化が起こらないので、化学シフト異方性効果や磁気双極子相互作用などの核スピン相互作用のため、とても幅広い周波数成分を持つようになります。そこで、固体NMRでは、マジックアングルスピニング(MAS)という手法を使って高速回転させて測定することにより、溶液には劣りますが、シャープな信号が得られるようになります。溶液よりは測定が難しいため、固体状態をそのまま測定したい試料や、溶液にできない試料などに対して用いられます。なお、固体NMRは専用のプローブや分光計を備えている必要があり、溶液NMRとは全く別の機種と考えてもよいくらいに装置構成が違うため、区別しておく必要があります。