結晶構造が分かっている粉末試料のX線回折パターンは理論的に計算できます。逆に正しくX線回折パターンが測定できれば結晶構造がわかるのですが、これには前提条件があります。それは「結晶粒が細かく均一で、向きがランダムであること」です。
簡単のために、ここでは結晶粒をサイコロに例えて考えたいと思います。
1~6の目は回折角が異なりますが、サイズや数が同じであれば強度は同じとします。
試料板にサイコロをランダムに詰めるとき、各目の出る確率(割合)は理論的には1/6ですべての強度は等しくなります。全体のサイコロの数が多ければこの割合に近くなりますが、少ない場合は各目の数に偏りが生じます(大数の法則)。イメージはつくとは思いますが、試しにサイコロの数と出た目の割合をシミュレーションしてみた結果が下記になります。(Pythonのrandomモジュールを使用)

全体の数が少ない時には各目の割合が理論値(16.7%)からのずれが大きいですが、数が増えるほど理論値に収束していきます。この結果では全体の数10000個の時の各目の割合は
1の目 17.1%
2の目 16.6%
3の目 16.8%
4の目 16.6%
5の目 16.4%
6の目 16.6%
となり、いずれも理論値に近くなっています。実際の測定ではX線の照射範囲に限りがありますので、数を多くするには粒子を細かくするということになります。下記はα-SiO2粉末の粒径と回折強度の再現性との関係を示した表になります(引用:粉末X線解析の実際 第2版 朝倉書店)。粒径が小さい(=回折に寄与する粒子の数が多い)場合は粒径が大きい時に比べてばらつきが大きいことがわかります。
| 測定回数 | 粒径(μm) | |||
| 15~50 | 5~50 | 5~15 | <5 | |
| 1 | 7612 | 8688 | 10841 | 11055 |
| 2 | 8373 | 9040 | 11336 | 11040 |
| 3 | 8255 | 10232 | 10046 | 11386 |
| 4 | 9333 | 9333 | 11597 | 11212 |
| 5 | 4823 | 8530 | 11541 | 11460 |
| 6 | 11123 | 8617 | 11336 | 11260 |
| 7 | 11051 | 11598 | 11686 | 11241 |
| 8 | 5773 | 7818 | 11288 | 11428 |
| 9 | 8525 | 8021 | 11126 | 11406 |
| 10 | 10255 | 10190 | 10878 | 11444 |
| 平均回折強度 | 8512 | 9207 | 11168 | 11293 |
| 標準偏差 | 2081 | 1164 | 485 | 157 |
| 相対標準偏差 | 24.45% | 12.64% | 4.35% | 1.39% |
試料の粉砕には一般的に乳鉢が用いられます。無機試料など有機溶剤への溶解性が低い試料であれば、粉末をそのまま粉砕する乾式法よりもエタノールなどの溶剤に浸漬しながら粉砕する湿式法が適しています。湿式は粒子が液中に浮遊し、大きいものから沈降していくので効率的に粒子を粉砕できるためです。下図はAl2O3粒子の未粉砕、乾式粉砕、湿式粉砕したときのSEM写真です。未粉砕の試料を同程度の時間粉砕しましたが、湿式の方が粒子が細かくなっているのが確認できます。ただし、これでも数十分は粉砕していたので一試料にかける時間としては根気のいる作業でもあります。

未粉砕 乾式 湿式